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2012/09 Sperry Glacier

Sperry Glacier

12年9月 月光の氷河

月に照らされた氷河が静寂に浮かぶ。何とも響きがいいではないか。これはもう撮るしかない、と以前から企てていたのだが、撮影条件がけっこううるさくて、実現していなかったものだ。条件というのはこうだ。

氷河を肉眼で鑑賞するなら満月に近いほうが明るくて良く見えるのだが、それを撮影すると星があまり写らなくなってしまう。夜の雰囲気を演出するには、脇役としての星にはしっかり写ってほしい。氷河や雪山の夜景を、星とともに写すには半月程度の月齢がちょうどいい。

次に、グレイシャー国立公園の氷河はほとんどが北東斜面にしか残っていないので、月の位置は東側が望ましい。半月で、東側から照らすというと、下弦前後の月齢になる。

季節は秋。残雪が溶けてクレバスが良く見え、かつ新雪に覆われる前だ。

そして、出発直前まで気になるのが天候。もちろん天気予報の降水確率0%が狙い目。秋の下弦の月前後で快晴、となると好条件は年間に何日もあるわけではないことがわかるだろう。

撮影する氷河の第一候補がスペリーグレイシャー。岩盤にへばりつく小規模なものと異なり、大きくてすぐ上に空が見える。片道16キロ、標高差は1500メートル。撮影機材とビバーグ用具を担ぎ上げるのはちょっとしんどいが、苦しければ苦しいほどに悦びの声をあげるというのが、写真家の基本である。

さて当日。登りの終盤はちょっとばてたが、夕方前には氷河のふもとに到着。標高2500メートル。氷河以外の四方は山々の遠景。空が広い。期待どうりの快晴にほっとする。ここまで来て曇ってしまっては、まさか悦びの声はあげないないでしょう、ふつう。

Sperry Glacier

日没から闇が訪れるまで、空の色彩の変化を楽しみ、その後は地面に寝ころんで満天の星々を眺める。夏の星座と秋の星座の間に、天の川。これだけ宇宙に近いと、川の流れが聞こえてきそうだ。

北の地平線付近、北斗七星の下にわずかな光のすじ。写真を撮ってみると、それは肉眼で見るよりもカラフルだった。オーロラがはるか極北の空を照らしている。

夜半過ぎに、木星を追いかけるように月が昇りはじめた。光源の出現で夜景は一変。小さな星が姿を消した変わりに、氷河が静寂に浮かび上がる。その幻想的な情景を、言葉で表現するのは難しい。せめて写真が雄弁であることを願う。撮影条件は全てそろったのだ。

Sperry Glacier