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2012/09 Glacier & Goat

Glacier

12年9月 氷河とマウンテンゴート

グレイシャー国立公園の氷河がしょぼくなっている。現在およそ20の氷河があるが、あと20年ほどで全て消失するらしい。「氷河」と漢字で書くと、谷を埋め尽くす氷の河みたいだが、そういうのはもはや当公園にはなく、山の北東側の日当たりの悪い斜面にへばりつくハンギンググレイシャーhunging glacierがほとんどだ。

マウンテンゴートの生息環境のなかで、安全を確保するための険しい崖は、かつて氷河が山を削って造ったものだ。すでに氷河はその役割を果たしたわけだが、数千年も存続していたものがこの時代に消えゆくのは、何とも悲しく切ないものである。となれば、やはりマウンテンゴートとグレイシャー国立公園の氷河を、一枚の写真に収めなければならない。

氷河が最も氷河らしく見えるのは秋。表面の残雪が溶けて、多くの氷が見えるほどいい。

氷河へのアプローチと氷河の見え方、周囲の地形、マウンテンゴートの生息状況などの条件を総合的に評価して狙いをつけたのがセクストングレイシャー。道路から9キロというのは、当公園としてはかなり近い。

そうして何日か氷河へ通ったのだが、この時期のゴートは氷河よりずっと高い崖にいた。彼らは、もっとも新しく芽吹いた植物を食べるので、夏の終わりから秋にかけては、いつも高いところへ行ってしまうのだ。標高が高いだけならば登ればよいのだが、険しい岩盤に阻まれて、なかなか近づくことができなかった。

ある日ようやくチャンスが訪れた。少々の危険を覚悟すれば、接近可能な位置にゴートがいたのだ。アタック開始。

足場がもろい。体が硬くて足が開かない。つかんだ岩がぐらつく。足場がすべる。ザックがでかすぎ。冷や汗をかきながら岩場を登る。下を見てドキリ。滑り落ちたとして、うまくいけばあの世行きだが、へたをすると大怪我である。健康保険未加入につき、怪我は許されない。下りの方が危ないから、本当は登りで冷や汗をかいてはいけないのだが。

Mountain Goat

ようやくゴートの高さまでこぎつけたものの、ポジショニングが難しい。広角レンズを使って画面の隅にしょぼい氷河を、もう一方にちっちゃなゴートでは記録写真である。なんとしても中望遠を使って氷河を引き寄せ、ゴートにはそれとカメラの間に入ってもらわなければ作品は生まれない。理論的にはゴートが宙に浮かなければ不可能なのだが、岩盤というのは激しい凸凹だらけだから、僕が割れ目の奥に入り、ゴートが出っ張りに出てくれればイケル。

また岩を登る。

幸いにもゴートは座って休息中。日陰だから、光る氷河との輝度差がありすぎる。逃がさぬように、ひたすらゆっくりと、静かにアプローチ。最終段階では時速5~10メートルが基本。落石とくしゃみはもってのほか。

僕は岩に背中を押し付けたまま、準備OK。最後は運に賭ける。ゴートが立って、左、もしくは手前に来れば日差しを受けて念願のツーショット。奥に行けば、視界から消えてしまう。

はたして立ち上がったゴートは、さっとお尻を向けると下へ移動。そして奥に進んで出っ張りの向こうへ消えてしまった。あっけない幕切れに、僕は唖然として立ちつくすのみ。

ところがまもなく、ゴートは出っ張りに再び姿を現し、こちらを見ているではないか。まさに奇跡の瞬間。特別な思いで、僕はシャッターを押した。

Mountain Goat