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2008/11 Moose

Moose

11月・ムース

今年は13年住んだウェストグレイシャーから、車で10分あまり離れた、森の中に引越しをした。家の売却のための補修やペンキ塗り、ガラクタの処分など、やることが山ほどあって夏中忙殺された。新しい土地でも環境整備のために、やはり肉体労働が待ち受けており、家が建って入居できたのは10月下旬になってしまった。というのが、撮影手記が三回坊主で滞ってしまった言い訳である。

10月のなかば、グレイシャーの、切り立つ岩山のふもとに広がる谷間に、ムースを追った。他の偶蹄類(シカやカモシカのなかま)の例に漏れず、交尾期の雄ムースにはただならぬ「やる気」がみなぎっていておもしろい。雄どうしが雌や縄張りを巡って、熾烈に戦うのが交尾期。僕はいくつかのシーンを想定しながら、ヤナギが茂る沢沿いを歩いた。

その時期、雄は交尾を受け入れる雌を探して、かなりの距離を移動している。だから四季を通じて、もっとも頻繁に目撃することができる。反面、継続的に観察するのは難しい。動きはゆっくりに見えるのだが実は足が速く、すぐにヤナギやアスペンの林に姿を隠してしまう。

静かな早朝、運良く湖畔に雌雄を発見したのだが、2頭はそれぞれにたたずみ、湖面に波紋を描き、暗い針葉樹に消えてしまった。2頭がどのように出会い、どれほどの時間をすごし、この先はたして結ばれるのか、すべて謎のままにカメラの中にわずかな断片だけが残った。

Moose
 (ペアの間に割り込もうとした若い雄に、ペアの雄が突進した)

僕が同じ谷を歩いたのはおよそ1ヵ月後。もう11月だというのに、スノーラインは山の中腹でもたもたしていた。黄葉を落とした裸のアスペンが、寒々しく風に揺れる。いっそのこと、木々は雪に包まれた方が暖かそうに見えるのだが。

4頭の雄のムースが、そんなアスペンの中に群れて座っていた。雄が群れるということは、交尾期が終わったこと意味していたが、何をしなくとも白く光るヘラヅノを冠する雄のムースは壮観である。ましてや4頭ともなれば。

やがて起き上がったムースのうちの3頭が、角と角を合わせて押し合いを始めた。遊びのようだ。カチッ、カチッと、乾いた音が林に拡がる。ときおり重心を落として、四肢や肩の筋肉を張らせるところを見ると、けっこう本気に遊んでいるらしい。アスペンの枝がバキバキと折れる。500キロ近い巨体どうしが押し合うのだから、迫力がある。

2頭が押し合っている時に、別の1頭がお尻をつついた。角の先端は鋭く尖っているから、これは遊びとはいえ、反則技だ。つつかれた方は、さっと身を翻し、角を向ける。また角の押し合いが始まった。人間のように笑顔をこぼし、歓声を上げたりはしないが、彼らは明らかに遊んでいる。交尾期が終わり、厳冬期が始まる前の、安らぐひと時にちがいない。

およそ10分にわたり断続的に、彼らは角突き合いに興じていたが、その後、採食移動を始めると、僕は置いてきぼりをくってしまった。またしても断片的な写真しか撮れないが、それでも積み重ねればムースという動物を理解する材料になるんじゃないか。そう自分に言い聞かせて、いつも後ろ姿を見送っている。