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2008/03 Snowshoe Hare

Many Glacier

3月・カンジキウサギ

メニーグレイシャーにバックカントリーで入った。冬は車道が閉ざされているので、11キロをクロスカントリースキーで歩かなければならない。クロカンは、空身で雪のコンディションさえ良ければ、徒歩の2倍のスピードが出る。しかし、その日は冬用キャンプ+カメラの重装備に加えて、ロッキーおろしの向かい風、0度前後のひっつき雪という三重苦で、テント場へ着くまでに5時間もかかってしまった。

3日目の朝、テントからほんの100メートルも離れていないところに、カンジキウサギを発見。冬山の針葉樹林では、ウサギの足跡は、アカリスの足跡と同じくどこにでもある。だがリスと違って、その姿を見ることはほとんどない。主に夜活動するからだ。まれに昼間見ることもあるが、こちらがカメラを用意するまで待っているほど、お人好しではない。

そのウサギは、しかし僕の予想を裏切り、わずかに盛り上がった雪の上で、ぴくりとも動かなかった。僕はカメラに望遠レンズを付け、一脚を雪にさして写真を撮り始めた。いつ逃げられるかわからないから、遠くから撮影を始め、1メートル近づくたびにシャッターを押す。最初に撮った写真は「掛け捨て保険」のようなものだ。

クロカンを履いたままじりじりと寄り、撮影を繰り返すうちに、ウサギまでの距離は10メートルを割った。ありがたいことではあるが、なぜ逃げないのだろう?と考えながらいったん後退して、反対側から狙ってみることにした。

僕が遠巻きに移動する間も、彼か、あるいは彼女は目で追うだけで、やはり逃げない。

裏側に回ってようやく、ウサギが冷静でいられる理由がわかった。穴だ。ねぐらに続くトンネルが、盛り上がった雪にぽっかりと口を開けていた。天敵に比べたらはるかにのろまで、鈍くさそうなニンゲンから逃げるのに、1秒とはかからないと踏んだのだろう。僕は、ウサギがその自慢のかんじきで雪の上を歩き、小枝や木の皮を食べる姿を撮影したくて、少し距離をおいて、動き出すのを待った。

Snowshoe Hare

やがて太陽が尾根から出て、林の雪面にストライプを映す。ウサギは目を細めるわけでもなく、すわったまま。眠ることもなく、およそ30分に一度の間隔で自分の便を食べる以外、ただじっとしている。僕ははるか山の斜面にいるビッグホーンの姿を双眼鏡で追いながらも、その日の撮影をこのウサギに決めていた。

昼を過ぎ、雲が太陽を覆い、風が木々をゆらした。ウサギは、依然、ただ存在あるのみ。こうなったら根気比べだ、と思うのはこちらの勝手で、もはやウサギにどんな思考があるのかさえわからない。

夕方になり、撮影不可能というところで僕は退散。発見してから11時間以上、そのウサギは人間の言うところの「何もしなかった」ことになる。だが、僕には少しだけ、カンジキウサギがどういう生きものか、わかった気がする。