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2009/02 Full Moon

Full Moon

09年2月 昇る月

月は美しい。だが、天空にただ浮かんでいる月をアップで撮っても、感情を排除した科学写真のようで、心をときめかす月の風情を表現することはできない。だから僕は、月が昇るときの、あるいは沈むときの、地上の風景と重なった絵をいつも狙っている。

レイクマクドナルドの湖畔、アプガー付近からは、北東方向に大陸分水嶺の山並みが見渡せる。もしも真東に山並みが見えれば、毎月、山から昇る満月を見ることができるのだが、山並みは北に寄っているので、冬至をはさんで前後50日くらいの間にだけ、満月は雪山の稜線から昇ってくれることになる。年間に3~4回のチャンスしかない。実際には冬の間、山の東側には雲が溜まりやすいから、昇る満月を見るチャンスは、一冬に一回あるかないか、という程度だ。

僕が雪の稜線にこだわる理由は、それが日没直前に赤く輝くからだ。それだけでもドラマティックなのだから、月が加われば絵画は完成する。天文学的には太陽と月と地球が直線になった時に満月と呼び、それが日没時刻だったら、同時に月が地平線から昇ることになる。これでは、日没直前に、東の山の上に月は存在しないので写真は撮れない。満月の前日くらいの方が狙い目だ。正確には、日没時刻と月の出時刻の時間差と、稜線の高さから、撮影条件を分析する。予習にはけっこう緻密さが要求される。

Lake McDonald

今年の2月は、日没時刻と月の出時刻の時間差がちょうどいいうえに、なんと晴れた。僕は湖畔で月の出を待った。三脚を2本立て、300ミリと600ミリのレンズを用意する。月が出る位置までは正確に予想できないから、絵になる画角は実際に月が出ないとわからない。

山々が夕陽を浴びて雪を赤く染めたころ、マウントジャクソンの右肩から、月は昇り始めた。稜線から離れるまでのわずかな時間、満月はその大きさを誇示し、意外な速さで宙に向かって動く。

月がすっかり宙に浮いた後、僕は望遠レンズのカメラから目を離した。水面は、輝度を落とし赤紫に染まった山と、明るさを増した月を映す。グレイシャー国立公園の中では、このレイクマクドナルドだけが唯一厳冬期でも凍ることがなく、鏡のような湖面に山々を映してくれるのだ。