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2016/05 Harlequin Duck

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2016年 5月 シノリガモ

その名もハリケーン。岩から岩にぶちあたり荒れ狂う激流に、果敢に飛び込むカモにふさわしい名前である。耳から入った英語は僕の耳でカタカナに自動変換されるので、最初にハリケーンと聞こえてからは、嵐のハリケーン(hurricane)だと疑わなかった。ところが何年も経ってから、鳥類研究者のレクチャーで、harlequin(ハーレクイン)とは中世の道化師のことで、その洋服のイメージが名前の由来だと説明されて、僕は愕然とした。よくよく見ると、スペルも全く違う。思い込みとは恐ろしいものである。ちなみに同種は北日本にも生息していて、和名はシノリガモ。

名前はともかく、彼らの潜水能力は尋常ではない。激流の圧力、抵抗は湖などとは比較にならないほど大きいのだが、彼らはあえてそこに入り、川底の昆虫などを捕食する。水の抵抗を殺す流線形、小ぶりで機敏な翼、力強い水かき。他のカモが泳げないところで餌を捕るために適応した、ホワイトウォータースペシャリストだ。

だから、この鳥の撮影では「激流」を演出しなくてはならない。緩やかな水面にぷかりぷかりと浮いていたり、岩の上で日光浴していたりする時の方が撮影しやすいのだが、それでは控室で休んでいる道化師である。やはり水しぶきを浴び、波にもまれる瞬間こそ、ベストシーンだ。

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この鳥は冬は太平洋沿岸まで移動して越冬し、4月から5月にロッキーに渡り、渓流沿いで繁殖する。ある日、オスがさかんにメスに近づき、首を振り振り求愛にいそしんでいた。ほとんどの野生動物がそうであるように、求愛時のオスは愛情表現に努力を惜しまず、涙ぐましいほど一途である。と、思っていると、そのオスはついにメスの背後に飛び乗った。それが地上や樹上であれば、「ついに乗っかることができてよかったね、おめでとう」と声をかけるところだが、ことは水上である。オスの重みで、メスは頭を噛まれたまま、水中に沈んでしまった。激流に潜るカモだからどうってことないはずだが、人間から見ると暴力男が女の顔を風呂に沈めるみたいで、お世辞にもおめでとうどころではない絵柄になった。

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