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2015/10 Grizzly

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2015年10月 グリズリー

グリズリーの食事というと、勢い良く跳ねとぶサケをぐいとつかみ、腹を割いてイクラの塊を丸呑みするシーンを想像するかもしれない。あるいは、絶命したエルクの肋骨を噛み砕き、肉塊に顔をうずめて鼻先を真っ赤に染めるシーンだろうか。グリズリーは力の強さと、大きな爪や牙のせいで、豪快な食べっぷりをイメージされる。僕がもしもテレビ番組の制作者だったら、血まみれの顔はやりすぎとしても、やはり肉食動物としての一面ははずせないだろう。

実際グリズリーとしても、できることなら毎日豪快に魚や肉を食べたいはずだ。だが、ロッキーのほとんどのクマはサケにはありつけないし、元気なシカやヒツジを捕まえられるほど速くは走れない。彼らはオオカミのように完成された捕食者ではない。グリズリーはいわゆる雑食性で、頻度で言えば圧倒的に植物を多く食べている。

夏から秋に食べるのがベリー。ハックルベリー、サービスベリー、バッファローベリー、ベアベリーなどなど。これらは潅木(低木)だから木登りの不得意なグリズリーにはうってつけだ。どれも粒は小柄だが、大量に実ればクマの主要な餌になる。

oct2015_02ベアベリーの群落とグリズリー

10月上旬、おおかたのベリーは食べつくされてしまった。冬眠にはまだ早すぎる。そんな時期の親子のグリズリーを高山帯で観察することができた。子どもといっても、おそらく2才半で、すでに母親と同じくらいの大きさ。時々、軽く母親にちょっかいを出すが、取っ組み合いをして遊ぶほど幼くはない。

その日、5時間の間に昼寝が二回あって、残りは採食移動。この時期マウンテンゴートやビッグホーンが枯れ草を食べるのに対し、グリズリーは地面を掘って植物の根っこ、もしくは球根を探していた。彼らは長い爪を生かし、耕運機の仕業ではないかと思うほど広範に地面を掘ることがある。

ひたすら地面を掘るクマの姿は地味である。近くで観察すれば力を入れた肩がぷるぷる震えたり、根っこを口に入れた瞬間の満足げな表情を見ることができるかもしれない。しかしそんなに近づくわけにはいかない。せめて玉ねぎくらいの球根を頬張ってくれると写真の撮りがいがあるのだが。いずれにしても、この地味な地面堀りこそ秋の典型的な採食行動だ。僕がテレビ番組の制作者だったらこのシーンを5分は入れたい。あいにくテレビ番組というのは長々と時間をかけて真実を伝えるものではなく、手短に刺激や感動を提供するものだから、農耕民族的なクマよりも狩猟民族的なクマの姿がもてはやされる。グリズリーといえば肉食性のイメージが強いのはメディアの影響だろう。

採食移動中に、ちょっと興味深いことがあった。子グマが歩いていると、突然足元から数羽のオジロライチョウが舞い上がった。踏まれそうになるまでじっとしていて、一斉に飛びたったのだ。ライチョウは10メートルも逃げないで着地して静止。クマは立ち止まり、きょとんとしていたが、無視してまた歩き始めた。これがイヌ科のコヨーテやネコ科のピューマだったら、体が反射的に反応して追いかけるにちがいない。しかしグリズリーの捕食行動は、経験や学習によるところが大きいといわれている。この子グマはライチョウが餌になりうることを知らないか、過去に何度か追いかけた結果、捕まえられる獲物ではないと学習したのかもしれない。

300頭もグリズリーがいるグレイシャー国立公園を安全に歩けるのは、彼らは人間が餌になりうると思っていないからだ。万一人間を襲って一口でも食べてしまったクマが発生したら、確実に捕獲して成獣なら殺し、子グマでも二度と野生に放さないのはそためである。

oct2015_03足元からライチョウが飛び立ち、立ち止まったグリズリー