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2015/09 Fall Color

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2015年 9月 一画入魂、危うし

撮影に際しては「一画入魂」を心がけていた。撮影とは作品創りだから、それぐらいの心構えがあって当然である。実際のところ、マウンテンゴートという動物は動きが哲学的に緩慢なので、シャッターを押す指に魂をこめる時間があるのだ。実情を明かせば、以前はフィルム代が高くて安易に写真を撮るわけにはいかなかった。10年前、スライドフィルムは現像代を入れて一枚あたり約30セント。つまりアメリカでは写真を2枚撮ったらバドワイザー一缶ぶんに相当する。露出を振ってオーバー気味とアンダー気味に撮っていたら、毎回缶ビールを損失することになる。無駄打ちは極力避けたい。誰だって必然的に入魂したのである。

デジカメに変わってからは、カメラさえ買ってしまえばいくら撮ってもタダになってしまった。もはや金銭的に慎重になる必要がないから、躊躇せずにシャッターを押す。単に歩いているマウンテンゴートでも、4本の足の位置が絵になった方がいいから連写だ。気がつくと昼寝をしている動物以外、入魂している時間がなくなってしまった。そして、たいして感動の一日でもないのに、400枚も撮ってしまうことがある。

一日にフィルムを400枚も消費することはなかったのに、デジカメでは撮り放題。フィルム歴ン十年の頑固オヤジや爺様たちはこの恩恵にあやかることができて涙を流したにちがいない。僕もその一人だ。だが、撮れば撮るほど、パソコンにしがみつき選別して捨てる作業に追われるようになった。まるで捨てるために撮ってるみたいにどんどん捨てる。一瞬のありがたみが、がらがらと崩れていく。これ、やばくないか?かつて写真家ジム ブランデンバーグは、秋分から冬至まで一日に一度だけシャッターを押す、という撮影を試み、ナショジオに発表した。究極の一画入魂である。まあ、そこまでこだわらなくても、シャッターを押した時の絵柄が記憶に残るぐらい、絵作りをするのが写真家というものではないだろうか。

上の写真は28年前、360本のフィルムを持って1年あまりカナディアンロッキーでキャンプしていた時のものだ。もちろんデジカメではないからその場で撮影画像を確認することができず、ちゃんと撮れますようにと祈るようにシャッターを押していた。そういう時の絵柄は、帰国後に現像して写真を見るまでちゃんと覚えていたものだ。

秋の一日、僕は原点に立ち返り、紅葉(もみじ)狩りに出かけた。ロッキーでは黄色の葉が圧倒的に多いから、黄葉狩りだ。渓谷に沿って陽のあたるところに、広葉樹が繁茂している。僕は常日頃、色彩に飢えていて、この時期の黄葉の誘惑にはめっぽう弱い。黄緑の混じったアスペンやシラカバの黄葉があれば、無条件に乱写状態。綺麗だということと、写真作品というものは本来全く別のことなのに。

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さすがに「一画入魂」を肝に命じていると、それなりに欲望を自制し、丁寧に画面創りをすることができる。秋の柔らかな日差しとせせらぎが心を落ち着かせる、という効果は期待できないので、2回シャッターを押したら缶ビールがごろごろと谷底に落ちる光景を想像するように頭のファンクションを設定する。

午後4時過ぎ、およそ10メートル四方のプールに出た。秋の水は限りなく澄み渡り、光の加減でプールは濃い翡翠。魅力的なだけに、ここは我慢のしどころ。画面の四辺に目を配り、余分なものがないかをチェック。さらに、画面の中の重心を見極め、ピントと露出をそこに慎重に合わせ、最後に息を止める。ブレないことはわかっていても、息を止めてシャッターを押すのが入魂の基本中の基本。

肌をくすぐるような風が吹いた。少し遅れて、細波が立ち始めた。軽やかに踊るような細波。同時に光の波が生まれ、岸辺の岩に向かって、次から次へと押し寄せる。美しい線。頼りない縞模様。にわかに心がざわつく。このシーンは逃してはならない。引いて、寄って、水面だけ、今度は岩も半分入れる。流れ来る落ち葉がアクセントをそえる。その漂流にピントを合わせ続け、10秒、20秒、、、ああ、窒息寸前。

さらに風が強まると、細波はゆらゆらと弾み、水面に無数のプリズムを形成した。川底の石が極彩色に変わり明滅する。信じがたいほどに幻想的。無色透明の清水が、太陽光線と風によって摩訶不思議に変化している。これを静止画にするには、感度を上げて速いシャッターを切らねば。そうだ、偏光、偏光フィルターも付けよう。もはや屁理屈をこねている場合ではない。俺は忙しいのだ!とにかく入魂は中止!

かくして僕は堰を切ったようにシャッターを押し続け、はたして作品なのか記録の断片なのか判然としない’絵柄を累々と作ってしまった。ま、写真は結果が全てだから、「数打ちゃ当たる」もあり。固い事言わないで、ここはデジカメの恩恵を受け入れましょ。

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