撮影手記 Photo Note
October 2009 / Moose Pair

09年10月 交尾期のムース
10月上旬、ちょうど山に入っているときに、季節はずれの寒波に見舞われた。マイナス20度近くに冷え込み、寝泊りしていた車の中でさえ全ての水分は凍りついた。精神的に準備ができていなかったので、ずいぶんと寒い。黄葉が遅れていたアスペンやコットンウッドの葉も、まだ黄緑だというのに凍りついて、その後は黄葉せずに枯れ葉になってしまった。
そんな秋だったが、後日、ブル(成雄のムース)の求愛を見ることができた。
湖畔の草地で座りのんびりと反芻していたブルが、湖に水草を食べに来た雌を発見するやいなや、彼の視線はその雌に釘付け。
むっくりと立ち上がると、ブォ、ブォ、ブォと、低いうめきのような声を発しながら、雌の方にゆっくりと歩き始めた。彼の見かけにふさわしい迫力ある声だ。交尾期には、たとえ近くに雌がいなくてもこの声で鳴きながら歩く。周囲に自分の存在を知らせるための声なのだろう。

小さな林を抜け、湖に入り、いよいよ雌に接近すると、雌のお尻の臭いを嗅いでフレーメン。吻部を上に向ける、有蹄類独特のしぐさだ。
もう一歩、前に出ると同時に、そのブルはヌォ~ンというような、文字で現すのは何とも難しいのだが、人間の男のような、しかもかなり気が弱そうな感じの声を出したのだ。状況から判断すると、「あのぉ~、ぼく~、準備OKなんですけどぉ~、あなたはどうですかぁ~?」ということになるのだろう。この声を何度か繰り返す。彼女の気持ちを盛り上げているようでけなげである。
もちろん雌には雌の都合があり、その日はあいにく雄を受け入れる状態ではなかったようだ。ただ歩きながら水草を食べるだけ。ブルはその後を静かについていく。迫力の巨ジカ、ブルムースの、ちょっとナイーブでシャイな午後のひと時だった。
